野球留学生の物語を読了しました。
著者がいわゆる“野球留学生”を多く受け入れている学校の取材を始めたのは平成24年の夏に全国高校野球選手権岩手大会決勝後に起きたある事がきっかけでした。
この試合のカードは盛岡大付VS花巻東。花東のエースはあの大谷翔平(敬称略)でした。試合は5-3で盛付が勝って甲子園出場を決めるのですが、試合後の優勝インタビューに答える藤田貴暉主将に対して「よっ、横浜瀬谷ボーイズ!」というヤジが飛びました。その光景を目撃した著者はそのヤジに憤りながらも、批判の多い野球留学生の真実を知るために北は八戸、南は諫早まで足を運ぶことになります。
物語は八戸学院光星から始まり、盛岡大付、健大高崎、帝京、滋賀学園、岩見智翠館、明徳義塾と続き創成館で終わります。合間に多数の留学生を輩出する大阪の中学球界や県岐阜商・鍛治舎巧監督、そして公立なのに留学生を受け入れている島根県の事情を採り上げたコラムが挟まります。
各校、生徒とも多少は事情が異なりますが、留学生を受け入れることや地元を出て甲子園を目指すことの共通点があります。それは、
①少子化の波に影響される学校経営が背景にあること。
②決して“一流”の選手を獲得するのではなく、学校や指導者に魅力を感じて入学を希望する生徒を優先していること。
③実は批判しているのはごく一部であって、彼らの日頃のがんばりを見ている地域の人々は応援していること。
④いずれ社会に出る彼らにとって、高校で日本全国から来た仲間と知り合い切磋琢磨することはプラスになること。
⑤卒業後にいったん離れても、また戻ってきてくれるケースがあること。というか、野球留学してくる時点で彼らは「関係人口」になっていること。
あの帝京が名門復活を賭けて関西からの留学生を受け入れていることや、全国優勝した明徳義塾中の選手の多くがそのまま明徳に上がらずに他校に進学してしまったという名将・馬淵史郎(敬称略)の嘆きなど、私にとっては「そうだったのか!」という驚きに満ちた発見もある本でした。
それにしても、物語の前半に改めて感じたのは大阪を中心とする関西や北関東、東北に張りめぐらされた東北福祉大OBネットワークの強力さです。福祉大は日本球界の一大勢力といっても過言ではないでしょう。
物語の締めは盛岡でヤジを飛ばされた野球留学生が今、電気工事士のかたわらプロのキックボクサーを目指し、そして起業も視野に勉強を始めている姿を記しています。野球留学に懐疑的な方々にも読んでいただきたい一冊です。
今日からはこれを読みます。