いい作品に出会った。2009年に刊行、2013年に映画化。最初に映画をみて面白くて、それから文庫を買って読んでみた。舞台は平成に入る直前の東京。長崎から大学進学で上京してきた横道世之介の一年間の物語。本でははっきりと書いてないが、映画では法政大学になっている。著者の年齢、出身地、出身大学をみると、自伝的な要素も含んでいるのかも。
横道世之介、私より3つ年上だが、映画をみると、自分の大学時代を思い出す。「あ、こんな場面あったような気がするな」と。地方から都会に出てきたときのドキドキ、ワクワク、そしてオドオド感が懐かしい。世之介を演じる高良健吾の絶妙な空気感が光る。そして、恋人の与謝野祥子役の吉高由里子はすでにこの時点で「ごきげんよう」を連発している(笑)
感情移入してしまうこの映画は、全てが名シーンだ。そして、実は世之介のモデルとなった人物が実際にいるので、それがわかり始めるとちょっぴり切なくなってくる。ラストではじんわりと、悲しくて、そしてあたたかい涙が流れる。キャッチコピーは「出会えたことが、うれしくて、可笑しくて、そして、寂しい」。
後から読んだ文庫では映画では出てこない印象的な、クスッとしてしまう場面があった。世之介が長崎に帰省中に会った高校時代の彼女との会話。
「世之介って、もうずっと東京にいるつもりなの?」
「そんなのまだ何も決めてないよ」
「じゃあ、いつ決めるのよ」
「いつって、そりゃ就職活動する時じゃないの」
「じゃあ、どんな会社に就職しようと思っているわけ?」
「そんなのまだ決めてないよ」
「じゃあ、いつ決めるのよ」
「だから就職活動する時」
私もそうだったが、あの頃、大半の大学生はこんなもんだったろう。いい時代だったなあ。その分、いま苦労が絶えないけど。
物語の終盤、国連職員になった与謝野祥子が同僚に世之介の事を語る場面がある(←これも映画にはない)。「いろんなことに、<YES>って言っているような人だった・・・もちろん、そのせいでいっぱい失敗するんだけど、それでも<NO>じゃなくて、<YES>って言っているような人・・・」
横道世之介。こんな人になれたらいいなと、ちょっぴり思った。