全国から視察が殺到している紫波町の「オガールプロジェクト」。端的にいえば公民連携(PPP)を活かした「補助金に頼らないまちづくり」のモデルである。補助金を「入れない」ではなく、「頼らない」なので誤解なきように。
このプロジェクトの発端は住民の設置運動の末に開業したJR紫波中央駅の乗降客確保や定住人口増加を狙って平成10年に町が策定した「日詰西地区土地利用基本計画」である。しかしながら、その時代をめぐる様々な状況により行政主導の計画は一時凍結。
そこで当時の藤原孝町長が考えたのが公民連携。東洋大と協定を結び、町職員を派遣、PPP手法を学ばせた。平成19年に「公民連携元年」を宣言、2年後には「公民連携基本計画」を策定した。まだ「公民連携?何じゃそりゃ?」という時代になかなかのものである。
まちづくりの主軸を担ったのは平成21年に設立された「オガール紫波」という株式会社。町が100%出資したのだが、翌年には39%まで下がっている。ここもミソ。このオガール紫波が平成22年に設立された「オガールプラザ㈱」に出資し、そのオガールプラザに町だけでなく、金融機関や(一財)民間都市開発金融機構も融資、出資して本格的な開発が始まった。
プロジェクトはいまや、「オガールプラザ」、「オガールベース」、「オガールセンター」の3施設を中心とする10.7haの土地に県フットボールセンター、図書館、直売所(紫波マルシェ)、レストラン、カフェ、アウトドアショップ、文房具店、学習塾、歯科、眼科、子育て支援センター、バレーボール専用アリーナ、ビジネスホテル、保育園、町役場等が立地し、人々が集う場に発展した。
さて、このプロジェクトになぜ民間資金を入れることができたのかというポイントがある。それはテナント誘致の際の手法を従来とは違った形にしたのである。従来方式は理想的な施設設計をし、「これならテナントが入るだろう」という思い込みで建設工事が進む。結果、思ったほどテナントが集まらずいきなりリスクを背負いこむ。全国各地でみられる失敗例である。
オガールプロジェクトは違った。最初にテナント誘致の調査から始め、ある程度の感触を得たうえで施設のボリュームを決定し設計・工事を行った。いわゆる「逆算方式」である。結果、オープン時に100%入居を実現した。これが「リスクの少ない安定事業」として金融機関や民都機構の評価を得たのである。
忘れてならないのが住民との合意形成。再開発の地域から国道4号線をはさんで反対側には日詰商店街がある。町民すべてが賛成だったわけではない。だからこの計画を進めるうえで町は約2年半かけて町内の9地区を4回づつ廻って理解を得る努力をしたのだそうだ。ここにも前日の盛岡市と同じように「住民と向き合う」姿勢が感じられる。当たり前のことなんだけど。
最後に説明者がこう言った。「本格着手から10年。整備は終わった。今年度からは管理・運営に入る。これからが本番です」。オガールプロジェクトの終わりなき挑戦。これからも注目していきたい。